脳脊髄液減少症低髄液圧症候群について
http://www.npo-aswp.org/data/teizui-med-info/orsos1.html#q6
脳脊髄液減少症患者にとって、保存的治療や、ブラッドパッチ後の治療効果向上と症状軽減に、必要不可欠な要素である水分補給についてまとめました。
(なお、本ページでの説明は、旧サイトのコンテンツをピックアップし、改正、改編したものです)
水分補給については、基本的には経口と点滴の2とおりの方法があります。
点滴での水分補水は医療行為であるため医師の処方箋が必要となりますので、ここのコラムでは経口のみのコンテンツとして記述します。
機会があれば、点滴についても記事を追加したいと考えます。
脳脊髄液減少症の専門医が解説。
脳脊髄液減少症ガイドライン2007
脳脊髄液減少症ガイドライン2007:(【監修】篠永正道医師(国際医療福祉大学熱海病院脳神経外科)の27ページ「治療の項目」より引用。
・ 保存的治療: 急性期はもとより慢性期でも一度は保存的治療を行うべきである。
・ 治療例:約2週間の安静臥床と十分な水分摂取(補液または追加摂取1000~2000ml/日)
上記ガイドラインの保存的治療時のみでなく、脳脊髄液減少症患者にとって水分補給を日常的に行うことは、たいへんに重要であると言われています。
当協会には、水分補給方法について実に様々な質問が多くあります。
そこで、患者さんの声をまとめてみました。
・担当医からも「できるかぎり水分をとってください。できれば一日2Lの水分を」と言われます。
・医師から2Lの水分補給を取ってと言われたんですけど、とても続けられなくって良い方法はご存知ないですか?
・水分補給って、お茶でも、お白湯でも何でも良いのですか? お勧めの水分補給方法はありませんか?
・点滴に行きたいのですが近所の病院では、なかなか点滴をしてもらえません。何か手軽にできる点滴の変わりになるようなものはありますか?
このような基本的な水分補給方法についても、様々な疑問点がありますので、脳脊髄液減少症患者の皆様にとっての水分補給について、要点を次のようにQ&A形式にまとめました。
ドクター1
(質問は当協会が内容をまとめ、回答は篠永正道医師にいただいた内容を記述しました)
(Q1) 脱水とは? 脳脊髄液減少症と脱水とは関係あるのですか?
(A1) 人間の身体は多くの水分で成り立っています。成人男性で体重の60%、女性で55%が水分となります。
この5%の違いは筋肉量の違いです。筋肉は水分の保管庫となります。
赤ちゃんは80%、幼児は70%前後となります。
体重の60%を占める水分の内訳ですが、40%が細胞内液、20%が細胞外液として存在しています。
細胞外液の20%のうち、15%は細胞間液(脳脊髄液)、残り5%は血液中の水分となります。
脱水となる場合、最初は血液中の水分が減少します。
脳脊髄液減少症患者の場合、脱水によって様々な症状が増悪されると言われていますので、脳脊髄液減少症と脱水は密接な関係があると言われています。
(Q2) 脳脊髄液減少症の治療に関する公的なガイドラインはありませんが、脳脊髄液減少症研究会が作成したガイドライン2007があります。
そこには、保存的治療として「急性期はもとより慢性期でも一度は保存的治療を行うべきである。
治療例:約2週間の安静臥床と十分な水分摂取(補液または追加摂取1000~2000mL/日)」と記載されています。
十分な水分摂取としてORS(経口補水液)は適しているのでしょうか?
(A2) 脳脊髄液減少症の保存的治療としてORSが適しているかどうかについてはわかりません。
しかし、水・お茶・ソフトドリンクなどで水分補給をしていると、体液が薄まってしまい、十分な補給効果が得られない場合があります。
保存的治療の目的が脱水状態の改善ということであれば、ORSをガイドラインに沿って適切に補充することは効果的であると考えます。
また、ORSは水・電解質を点滴する場合とは異なり、安全かつ簡便に補給できるという利点があります。
(Q3) 脳脊髄液減少症患者にORSが効果があるという科学的根拠はありますか?
(A3) 脳脊髄液減少症に対するORSの効果を調べた文献は今のところありません。
髄液の漏れが発生し脳内の静脈が拡張し血流が悪くなり、様々な症状が発生すると言われているのが脳脊髄液減少症です。
脳内の脈絡叢(みゃくらくそう)で髄液が産生されると言われており、体水分が不足しないよう、水分を常に補充することや、水分が不足した場合には点滴することにより髄液量が維持されるのではと言われております。
そういった意味では、吸収速度が速く、至適な量の電解質と糖を含んでいるORSを適切に用いることは重要であると推察されます。
ただし、実際の飲用方法、飲用量などについてははっきりしていません。
脳脊髄液減少症患者の場合、健常者より脱水による症状が出やすく、体重の2%又は1.5%でも症状が出てしまうのかもしれません。
本当にそうなのかは、今後の研究課題です。
ORS(経口補水液)に詳しい会社でのレクチャー。
大塚製薬工場
これからの暑い時期になれば、マスコミ等では熱中症による重篤な被害や悲惨な事故が毎日のように報道されます。
脳脊髄液減少症患者だけでなく、健常者も日常生活上で、水分補給についての専門的な知識が必要と考え、この分野に詳しい、(株)大塚製薬工場様に種々お願いし「水分補給」についての資料等をいただきました。
更に徳島県鳴門市の(株)大塚製薬工場、本社・研究所を訪問させていただき、経口補水液(けいこうほすいえき)(ORS)での正しい水分補給の方法等についてレクチャーしていただきました。
つきましては、その報告という形で、掲載させていただきます。
皆様のお役に立てば幸いです。
大塚製薬工場レクチャ
レクチャー内容についてもQ&A形式で記述します。
(もちろん「Q」が我々で、「A」は大塚製薬工場様です ☆彡)
いろいろと勉強になりました!
大塚製薬工場の皆様に感謝!
注目:管理人は高次脳機能障害で、かなり強い症状がありますが、この時のレクチャーは今でも覚えていますよ。
【Q項目】
ヒント(クリックすれば、各項目の詳細に飛びます)
Q1: 人間の毎日の水の出納はどうなっているの?
Q2: 腸管の中への水分の出納?
Q3: 水分の取り方① 「気をつけなければいけない点はありますか?」
Q4: 水分の取り方②
Q5: ORS(経口補水液)とは?
Q6: 経口補水液を飲み調子が良いと感じた場合 いつも経口補水液を飲用していかなければならないのですか?
Q7: 自宅でORS(糖分と塩分のバランスよく含む)は簡単に作れるのでしょうか?
Q8: 現在、国(消費者庁)が許可した経口補水液(食品)というのは販売されているのでしょうか?
Q1: 人間の毎日の水の出納はどうなっているの?
A1: 栄養学の教科書では成人で1日あたり2400mlの水分が出入りしています。
内訳ですが、飲料水 1,100ml、食物 1,000ml(食べるものの中にも水分が含まれています)、後は代謝水(栄養素が体の中でエネルギーになる際に生成される水) 300mlとなります。
一方、出るほうですが不感蒸泄(身体から無意識のうちに蒸発する水分)として800ml(呼気から300ml、皮膚から500ml)が失われ、尿として1,500ml(不可避尿500ml:避ける事ができない尿 可避尿1,000ml:避けることができる尿)が失われます。
そして便中に100mlが排泄され、合計2,400mlの排泄となります。
例えば、一日の飲水量が 1,000mlに留まってしまったという場合、可避尿を減らしてそのバランスを取ることができます。
Q2: 腸管の中への水分の出納?
A2: 上記は見かけの水分出納でしたが、身体の中では大量の水分が無意識の内に腸を通して出入りしています。
まず、腸へ流入する水分は2,000ml(食べて1,000ml、飲んで1,000ml)、唾液1,500ml、胃液 2,500ml、胆汁500ml、膵液1,500ml、小腸からの分泌が1,000mlで合計腸の中へは9,000mlもの水分が分泌されています。
それに対し小腸で7,000ml、結腸で1,900mlが吸収され、残りの100mlが便として排出されます。
このように見える水分としては1日あたり2,400mlでバランス取れているように見えますが、腸の中では9,000mlの出入りがあります。下痢をした場合、ここの腸の中での水分バランスが崩れ、出ていく水分が増えます。
qbackotuka
Q3: 水分の取り方① 「気をつけなければいけない点はありますか?」
A3: 脱水とは、体から水がなくなるようなイメージがありますが、身体から体液が減少することです。
ですから失われるのは水だけではなく、塩分と水分が両方減少するということです。
成人の水分摂取量は体重60kgの方で、栄養学の教科書により異なりますが2,400mlといわれています。(但し、夏場に発汗が多い場合、必要水分量は増えます)
身体にある体液中には水分のみならず電解質(イオン)が含まれています。
マグネシウム、カリウム、ナトリウム、カルシウムなど多くの種類がありますが特に細胞外液にはナトリウムと塩素が多く含まれています。
ナトリウムと塩素が多く含まれている血液は体内を循環しています。
脱水になった場合は水分とともに電解質も排出されてしまいます。
身体はこの体液の濃度と量を調整する機能がそれぞれ独立して働いています。
例えば、汗を多量にかき、水のみを多量に飲んだとします。
すると、身体の中の水分量が増えても体液が薄くなり、黄色信号を身体は出します。
量と濃度どちらを身体は優先するかといいますと身体は濃度を重要視するようになっています。
体液の濃度(水分中の電解質・イオン濃度)などを一定に保とうとするように体は第一優先で働くのです。
ですから脱水の時に水を多量に飲んだ場合、体液が薄まってしまい、身体は水を飲むのが辛くなります。体液の濃度が薄くなるからです。
身体(脳)が飲むなという指令をだします。しかし水分とイオンは足りないのでまだ脱水状態は続きます。
ですから脱水の時に水などを多量に飲むということより、体液に近いORSを飲む方が身体に優しいことになります。
経口補水液は身体から体液、つまり水分と塩分が減少したときに飲む飲料といえます。
(参考)
一般の成人では体重の3%以上の脱水になると 自覚症状がでてきます。
しかしスポーツ選手の場合は、体重の2%の脱水になると運動能力がおちると言われています。
体重の3%を超える脱水になりますと、頭痛がする、全身倦怠感、落ち着きがないなどの症状が出る場合があり、体を循環している血液量が少なくなるので心拍数は上がりますが脈は減少します。
皮膚の水分量が少なくなり、日常生活が困難になるといわれています。
体重の9%を超える脱水状態では生命の危険があります。
Q4: 水分の取り方②
A4: 経口補水液(ORS)のポイントは、体から失った水分と塩分が含まれていることと、それらの吸収を早める炭水化物(ブトウ糖)が含まれていることです。
ブドウ糖と電解質のバランスが良い場合に水分の吸収が早い事が分かっています。
電解質の量、またブドウ糖の量がどちらかの量が多すぎたり少なすぎたりすると水分の吸収が逆に悪くなることもわかっています。
海外では、2003年のCDCガイドライン(米国厚生省疾病管理予防センター)などで、その組成が決められています。
(例) ブドウ糖液、生理食塩水、そしてORSについて腸内での吸収速度を比べた場合、ブドウ糖と電解質がバランス良く混合されているORSが最も早く腸内に吸収され実験結果があります。
(参考)激しい脱水や下痢などは、はなはだしく塩分が体内から排出され続け、放っておけば最終的には輸液が必要になるという状況下で、そうならないように早めにORSで防ぐというのが基本的な経口補水療法の考え方です。
qbackotuka
Q5: ORS(経口補水液)とは?
A5: 水分と電解質(主にナトリウム)をすばやく補給できる飲料のことです。
ORS(Oral Rehydration Solution)は経口補水療法(Oral Rehydration Therapy)に用いられる飲料で、水分と電解質をすばやく補給できるようにナトリウムとブトウ糖の濃度を調整した飲料です。
簡単に言えば脱水状態からの回復に役立つ飲料と言ってよいかと思います。経口補水液には、医薬品と食品の2種類があります。
Q6: 経口補水液を飲み調子が良いと感じた場合、いつも経口補水液を飲用していかなければならないのですか?
A6: 通常、何も身体に問題なければ飲む必要はありません。
普通にバランスよい食事をとり、普通に水分をとっていれば良いわけです。
Q7: 自宅でORS(糖分と塩分のバランスよく含む)は簡単に作れるのでしょうか?
A7: できます。 水1リットルに上白糖40g(大さじ4と1/2杯)、塩3g(小さじ1/2杯)を溶かし、グレープフルーツなどの果汁を加えることによりORSを作ることができます。
しかし、作り方のばらつきにより常に適切な濃度のものが作れるとは限らないことをご承知おきください。
ORSの作り方
Q8: 現在、国(消費者庁)が許可した経口補水液(食品)というのは販売されているのでしょうか?
A8: 現在、一般食品と特別用途食品(病者用食品)が市販されています。
OS-1製品3種私ども㈱大塚製薬工場からは経口補水液「OS-1(オーエスワン)」という商品を発売しています。
「オーエスワン」は、軽度から中等度の脱水状態の方の水電解質を補給・維持するに適しているとして、消費者庁が許可した食品です。
(画像、又はここをクリックで案内サイトへ)
qbackotuka
【協会スタッフからのワンポイントアドバイス】
ワンポイントアドバイス
脳脊髄液減少症患者にとっても、健常者においても水分の正しい補給方法やその医学的根拠が理解できたと思います。
ただし、留意していただきたいのは、本疾病患者は病態における状況の個体差が著しく大きいということを念頭に置いていて下さい。
自分の状態は本人にしか解りません。
上記、長文で説明したことを、ある程度理解しておけば少しは適切な対応ができることと思います。
基本的には、医師や薬剤師とこまめに相談しながら、水分補給するようにして下さい。
早期、回復を祈っております。
qbackotuka
BY 管理人
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ップ 病気を調べる 脳脊髄液減少症
のうせきずいえきげんしょうしょう
脳脊髄液減少症
別名
低髄液圧症候群
最終更新日 2017年04月25日 更新履歴
この病気の情報を受け取る
目次
概要
原因
症状
検査・診断
治療
概要
脳脊髄液減少症とは、脳と脊髄せきずいの周りを満たす髄液が少なくなることにより、頭痛・めまい・首の痛み・耳鳴り・視力低下・全身倦怠感などのさまざまな症状が現れる病気です。「低髄液圧症候群」と呼称される場合もあります。
頭蓋骨・脊柱の中におさまる脳や脊髄は、表面が髄膜ずいまくと呼ばれる膜によって覆われています。髄膜の一番外側には硬膜こうまくがあり、その内側にはくも膜があります。脳・脊髄とくも膜の間はくも膜下腔と呼ばれる空間になっており、この空間は髄液ずいえきで満たされています。
髄液はくも膜下腔を循環しており、一定量が保たれるよう調整されています。しかし、何かしらの原因により髄液の量が減少すると、髄液の流れに変化が生じ、それと共に脳も動くようになります。脳が通常の位置よりも落ち込むようになり、頭痛が発生することを脳脊髄液減少症と呼びます。
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脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)の原因と症状とは?
山王病院(東京都) 脳神経外科 副部長
高橋 浩一 先生
「脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)」という病名を聞いたことはあるでしょうか? 日本ではあまり知られていない病気であり、この病気に関しては原因の...続きを読む
原因
髄液が漏れ出る原因を特定できないこともありますが、軽微な外傷や交通事故などの強い外傷と関連が挙げられます。また、手術における麻酔手技のひとつとして腰椎穿刺ようついせんしと呼ばれるものがあります。これは、腰の骨に当たる腰椎から針を指し、脊髄周辺に麻酔薬を注入することで痛み止めの効果を期待する手技です。この手技によって髄液が漏れ出るきっかけをつくった結果、脳脊髄液減少症を発症することがあります。
症状
髄液が少なくなり脳が正常の位置からずれてしまった結果、脳の血管や硬膜が刺激され頭痛が誘発されます。特に、横になっているときよりも起立している状態のほうが、症状が強くでやすい傾向にあります。そのため、脳脊髄液減少症では、起立性頭痛が典型的な症状となります。また、頭痛以外にも、以下のようなさまざまな症状を伴うことがあります。
めまい
首の痛み
耳鳴り
視力低下
全身倦怠感
など
こうした症状は治療の効果が得られない場合には慢性的に持続することになり、脳脊髄液減少症のために精神的な苦痛を感じるケースもあるでしょう。
検査・診断
脳脊髄液減少症では、脊髄液の減少を観察することが重要です。脳や脊髄に対してMRI(磁気を使い、体の断面を写す検査)を実施することで、脊髄液の減少から生じる形態学的な変化を評価することが可能です。
また、髄液が漏出している像を直接的に評価するためには、RI(放射性同位元素)脳槽シンチグラフィーが有効です。漏出の原因となっている部位を同定することができると同時に、漏出を反映して髄液の量が低下していることも同時に評価することができます。そのほか、CTやMRIを応用した脊髄腔造影法(CTミエログラフィーまたはMRミエログラフィー)で髄液漏出像や硬膜外液体貯留像など陽性所見が認められることもありますが、画像診断で髄液漏出部を特定できることは比較的まれです。
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脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)の検査―現状とその課題
山王病院(東京都) 脳神経外科 副部長
高橋 浩一 先生
「脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)」という病名を聞いたことはあるでしょうか? 日本ではあまり知られていない病気であり、この病気に関しては原因の...続きを読む
治療
脳脊髄液減少症では、保存的な治療方法とブラッドパッチと呼ばれる治療方法が検討されます。脳脊髄減少症は、きっかけとなる外傷(事故や頭部打撲)などによって発症します。この際、安静を保ちつつ水分補給を十分に行うことで自然治癒を期待することがあります。保存的治療は、発症後、早期に行うと効果的です。
また、脳脊髄液減少症に対する有効な治療としてブラッドパッチと呼ばれるものがあります。正式には、硬膜外自家血注入療法こうまくがいじかけつちゅうにゅうりょうほうといわれます。ブラッドパッチでは、髄液が漏出している付近の硬膜外腔に針を挿入し血液を注入します。血液は固まる性質があるため、注入された血液が、髄液が漏出している部位を塞いでいくことを期待できます。
さまざまな病態を含む脳脊髄液減少症ですが、ブラッドパッチはいずれの病態に対しても、治療効果を期待することができるといわれています。ブラッドパッチは、2016年4月から保険診療として治療を受けることが可能となっています。
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脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)の原因と症状とは?
インタビュー
最終更新
2015/07/03
更新履歴
脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)の原因と症状とは?
高橋 浩一 先生
山王病院(東京都) 脳神経外科 副部長
高橋 浩一 先生
この記事の最終更新は2015年07月03日です。
「脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)」という病名を聞いたことはあるでしょうか? 日本ではあまり知られていない病気であり、この病気に関しては原因の解明から治療方針に至るまで、さまざまな議論がなされています。
はたして脳脊髄液減少症とはどのような症状の病気なのでしょうか? 長年にわたり脳脊髄液減少症の診療に携わってきた、山王病院脳神経外科副部長の高橋浩一先生にお話をお伺いしました。
脳脊髄液減少症とは
脳脊髄液減少症とは、髄液という脳と脊髄の周りを満たす液体が少なくなることにより、頭痛・めまい・首の痛み・耳鳴り・視力低下・全身倦怠感などの様々な症状を伴う病気です。
これらの症状は、立ち上がる際に悪化する傾向があります。そのため、特に頭痛については起立性頭痛と言われます。
髄液について
脳と脊髄は下の図のように「硬膜」の中に入り包まれています。 硬膜と脊髄の間には「くも膜下腔」という空間があり、そこが「髄液」により満たされています。この「髄液」は常に脳・脊髄の表面を流れています。
骨髄のたまる場所ー脳脊髄液減少症
クモ膜下腔の位置と脳脊髄液がたまる場所
脳脊髄液減少症ー治療の歴史と現在の課題とは?
最初に脳脊髄液が減少することにより頭痛が起きるとされたのは、1930年代のことです。
その後に「腰椎穿刺」(脊髄周囲の髄液が存在する部位に針を刺す)という手技が発達し、その後、針穴から髄液が漏れる事により頭痛が生じる「低髄液圧性頭痛」が報告され、問題となりました。現在でも腰椎穿刺後に頭痛が起きることは知られています。
1990年代には、起立性頭痛が見られ、MRI検査などで異常が認められる疾患「低髄液圧症候群」が報告されました。
ブラッドパッチ治療の登場
篠永正道先生(現:国際医療福祉大学熱海病院 教授)が、2000年に外傷性頚部症候群(いわゆるむち打ち症)後に、頭痛・めまい・全身倦怠感などを長期に訴える症例に「低髄液圧症候群」が存在し、ブラッドパッチ治療が有効であることを報告しました。
その後、実際には髄液圧が正常である場合も多くあることが明らかになり、むしろ髄液が少なくなっていることが病態の中心ではないかと言われるようになりました。この過程を踏み、最近では脳脊髄液減少症と呼ばれています。
(参考:脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)の治療―ブラッドパッチ)
脊髄液減少症の画像判定基準・画像判断基準
脳脊髄液減少症に対しては、2007年度厚生労働省科学研究費補助金により「脳脊髄液減少症の診断・治療法の確立に関する研究班」が立ち上げられました。
平成24年に画像判定基準・画像判断基準が公表されています。
むち打ち後遺症としての脳脊髄液減少症の議論
脳脊髄液減少症では、つい「むち打ちの後遺症」として起きるのか? という点ばかりが注目されてしまいます。私自身も、一定数の患者さんがむち打ち後に脳脊髄液減少症になる可能性もあるとは捉えています。ただ、むち打ち症の何割が脳脊髄液減少症を罹患しているのかが明らかでないなど、課題が多く残されているのは間違いありません。
しかし、この「むち打ち後遺症としての脳脊髄液減少症」があるか? ないか? という議論のために「脳脊髄液減少症(あるいは低髄液圧症候群)」という病気の存在そのものが懐疑的な見られ方をしてしまっています。これは大きな問題であると考えます。
ブラッドパッチ治療は保険適用外
さらに、必要な治療であるブラッドパッチ治療までが保険適用になっていないため患者さんの負担が大きいという現状があり、問題は山積みとなっています。
髄液減少病態
髄液が減少する病態には以下の大きく3つがあります。
特発性低髄液圧症候群
特発性低髄液圧症候群の症状としては起立性の頭痛が顕著で、頭部MRIにて「びまん性硬膜造影像」を認め、多くの症例で髄液圧が低圧を示します。
「RI脳槽シンチ」や「CTミエロ」、「MRミエロ」で髄液漏出像や硬膜外液体貯留像など陽性所見を認める場合が多く、現在では世界的に確立された疾患となっています。
●年間発症率
少なくとも20000人に1人とされています。原因は特発性、もしくは軽微な外傷の場合が多く、治療予後が良好です。
●合併症
特発性低髄液圧症候群では、慢性硬膜下血腫の合併が少なからずあり、山王病院の症例では特発性低髄液圧症候群の約1/3に慢性硬膜下血腫が合併しています。
慢性硬膜下血腫を合併した特発性低髄液圧症候群は、ブラッドパッチを含めた適切な治療にて良好な予後を期待できますが、ブラッドパッチが保険適用になっていないため、治癒に至らず、国内外から死亡例の報告もあります。 また、ブラッドパッチ治療が自由診療であるがゆえに、保険診療である慢性硬膜下血腫の治療と同時に施行が困難であるという問題もあります。
さらに特発性低髄液圧症候群には、静脈洞血栓症を合併する場合があります。しかし、本症の認知度が低いため、適切に診断されずに、長期間経過観察され、半身麻痺を生じて、はじめて特発性低髄液圧症候群と診断された症例もありました。このような問題が生じているのは、ブラッドパッチが保険適用されていないということが大きな要因の一つにあると思います。
腰椎穿刺後の髄液漏出
腰椎穿刺後に起立性頭痛を生じる場合があります。腰椎穿刺の針孔から髄液が漏出するためと考えられています。通常は、数日間の安静で治癒しますが、稀に起立性頭痛が長期化する場合があります。
このような症例に対しても穿刺部を塞ぐブラッドパッチ治療が有効です。
脳脊髄液減少症(漏出症)
脳脊髄液減少症は頭痛、めまい、嘔気、耳鳴り、倦怠感など他の不定愁訴を伴う場合が多く、頭痛に関しては典型的起立性でない場合が多いです。 また頭部MRI、RI脳槽シンチやCTミエロ、MRミエロにて特徴的な所見を呈する場合が少なく、髄液圧は正常圧の場合が多いです。
原因として、不明、もしくは交通外傷など強い衝撃の場合が多く、治療予後は改善率約75%です。学童期、小児期発症例は、ほとんどが脳脊髄液減少症です。
脳脊髄液減少症の原因として議論になっているもの
上記3つの原因のうち、特に脳脊髄液減少症に関しては、画像上、特徴的な所見を示さない場合が多いなど、議論となっています。この点に対しては大きな課題があり、今後も慎重に検討していく必要があります。
しかし、特発性低髄液圧症候群に関しては、国内外から臨床像や画像所見、治療方法に関する報告も多く、確立した疾患です。また、腰椎穿刺後頭痛に対するブラッドパッチ治療は、50年以上前から行われている歴史ある治療法です。
こういった病態に対してすら、適切な治療がなされずに経過観察されている症例が少なくありません。これもブラッドパッチが保険適用になっていない大きな弊害であり、私たち医師も早期の保険適用認定を強く望んでいます。
脳脊髄液減少症の症状と治療ーブラッドパッチ治療の効果
最も典型的な症状としては、 起立性頭痛(起き上がると頭痛が増強する) が挙げられます。
その他には以下の様な5症状を伴う場合があります。
頚部痛(首部が痛む)
全身倦怠感(疲れやすい)
めまい
吐き気
耳鳴り
これらの症状は、症状の強弱はあるものの、連日出現します。
脳脊髄液減少症の症状はいわゆる「よくある症状、誰でも訴え得る症状」が多いため、患者さん自身も見逃してしまいがちです。だからこそ医療機関側も慎重に診断をしていく必要があります。
日常生活・社会生活に強い支障を来す頭痛などの不定愁訴があり、「様々な治療をやっても治らなかったのに、ブラッドパッチ治療でとても良くなった」という方々が少なくないのは事実です。ブラッドパッチ治療は脳脊髄液減少症の治療以外にも、難治性の不定愁訴を訴える方々や外傷性頚部症候群に悩む方々の治療に一石を投じた存在と言えるかもしれません